佐賀県佐賀市にある歴史ある神社「願正寺」の参道が発展してできたと言われる、呉服元町。
戦後の人々の暮らしを支え、今は高齢化や開発によりその姿は徐々に変わっている。
そんな、ある意味で日本中に溢れている光景がこの町にも広がっているそう。
この本は、「佐賀市四大マーケット」と呼ばれたバラック商店街の、現存する最後の1つ「中央マーケット」と
それに隣接する「呉服元町ビル」の中と、その周辺にあるお店を紹介する本です。
お店の様子だけでなく、店主の方からお店の成り立ちやこだわり、人となりも丁寧に取材。
羊羹屋さんから靴屋さんへの転身、すぐ親父ギャグを言う青果屋さん、メニューがなくお客さんの雰囲気で定食を出すバー……
それぞれのお店のエピソードには、それぞれの人の生活史が閉じ込められています。
「高齢化」「シャッター商店街」「取り壊し」など、言葉だけで見るとありふれており、あっさりしたことのように思えます。
でもその言葉のイメージを踏み越えて、向こう側にいる人たちに目を向けると、ひとくくりにできない様々な感情が巻き起こります。
2017年にもう1つのバラック商店街「寿通り商店街」が取り壊されたのは、
高齢になった商店街の方々のご意向のためだったそうです。
そういうことを聞くと、昔を知らない新参者や部外者の立場からすると「寂しい」「切ない」なんて一口に言うのも
なんだか薄っぺらいんだろうか、という気もしてきます。
だけどやっぱり寂しい。変わっていくのは仕方がなくても、少しでも今の姿を記憶にとどめたい。
そんな著者の思いが全ページから溢れてくるような、素晴らしい本です。
A5 80ページ フルカラー
写真・デザイン・文 /東 成実
編集/野村 レオ
絵/中村 美和子