シカクでもたくさんの関連書を扱っている作家・香山哲さんの小説です。
香山さんといえば、『ベルリンうわの空』シリーズをはじめ、マンガ作品のイメージが強いかと思いますが、この本は小説で、ただ、挿絵がたくさん挟まった、すごく読みやすい小説になっています。
スノードーム(半球の中に液体やスノーフレークが入っていて、いくつかのオブジェがその中にある、あれです)の中にいるオブジェたちが、スノードームの天井にひび割れがあることを発見し、それはつまり自分たちを取り巻く世界の危機をおそらくは意味しているのですが、それについて落ち着いて考えをめぐらせながら、日々を過ごしていく様子が描かれています。
とにかく落ち着いて、今考えられることを考える。変に自暴自棄になったり、誰かに対して攻撃的になったりしない。不安があっても、最後までその状況をしっかり見ようとし、そこからわかることを材料にしてまた考える。その先に何があるか、予測できるかもしれないし、できないかもしれないけど、とにかく、できることをやる。
登場人物たちのやり取りから、そういう姿勢を感じ、これはこのまま、世の中を生きていく姿勢につながる話なのだと思って読みました。
これまでの香山さんのマンガ作品と、パッと見の印象は違うかもしれないですが、世界への向き合い方はやはり、共通しています。
著者プロフィール
香山哲 (カヤマ テツ) (著)
漫画やコンピューターゲームやエッセイなどを制作。『香山哲のファウスト1』が2013年に第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査員推薦作品に入選。『心のクウェート』が2017年にアングレーム国際漫画祭オルタナティブ部門にノミネート。不可思議移住エッセイマンガ『ベルリンうわの空』が2021年に『このマンガがすごい! 2021』(宝島社)オトコ編10位にランクイン、第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査員会推薦作品に入選するなど、大きな話題に。著書に漫画の新連載計画を練る過程を描いた『香山哲のプロジェクト発酵記』『レタイトナイト』など。
https://kayamatetsu.com