月と文社「今日も演じてます」

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(公式インフォより引用)

紹介
「ちゃんとした大人を演じる」「頼れる上司を演じる」「いい子を演じる」――私たちは日々、なんらかの役割やキャラクターを演じています。

本書は、「陰キャ」「良き母」「サラリーマン」「アイドル」「できる人」「道化」…などを演じてきたという自覚を持つ8人の人生を紐解くインタビュー集です。演じることで感じた違和感や苦しみ、得られたもの…。赤裸々な語りは、個人的な物語であり、今を生きる私たちが共有している物語でもあります。

何かを演じて生きることの意味を考えながら、「どんな自分でありたいか」を自問自答できる一冊。「今日も演じちゃったなあ」と感じた夜に、その苦みや甘さをかみしめながらページをめくってみてください。

目次
【目次】
「陰キャ」を演じる……するめ(20歳・技術職)
ChatGPTに「文章書いたら?」と言われて/幼稚園の頃から『アメトーーク!』が好き/高校では誰にも話しかけなかった/女の子の前では演じてしかいない/小二で王子役をやって、性格を変えた

「良き母」を演じる……ゆきんこ(53歳・倉庫のパート勤務)
ママ友関係からフェードアウト/ピアノを手放したら呪いが解けた/八十代の親の喧嘩に遭遇して/表面的な関係に罪悪感があった/邪魔にならない姑を目指している

「サラリーマン」を演じる……麦畑(38歳・一般企業勤務)
高校時代はルーズリーフを真っ黒に/サラリーマンは負け犬だと思っていた/一〇〇%で演じられないと苦しくなる/「演じていない自分」を取り戻したくて/「野原ひろし」になれた喜び

「大人」を演じる……みゆき(41歳・営業会社勤務)
敬語を使わない英語文化が好きだった/CA時代のストレスは怖い先輩/セールストークがしんどくて/責任を求められると逃げたくなる/気づけば「生きづらい人」になっていた

「アイドル」を演じる……マサト(46歳・プロレスラー)
いじめられていることに気がつかなかった/「誠実な人」で金持ちをカムフラージュ/自分に合わないキャラでは人気が出なかった/悩みのない人を演じているとうまくいく/アイドルキャラは自分の生存戦略

「できる人」を演じる……真由子(30代後半・事務職)
「わからない」を言えなかった新入社員時代/ある日、通勤電車に乗れなくなる/キラキラ起業女子の講座に参加した/「暇な自分には価値がない」と思ってしまう/「自分らしさ」という言葉にモヤモヤする

「道化」を演じる……ユウスケ(30歳・フリーランス編集者)
太宰治の「ワザ。ワザ」に衝撃/いじめっ子の背景にあった残酷さ/「成績いいキャラ」から降りられない/死にたがる高齢者の話を聞いて/自分の性と向き合い始めた

「普通」を演じる……yariko(45歳・事務職)
母親に気に入られたくて「信者」を演じた/十五歳で「自分の人生を生きる」と決断/「普通の家庭」に憧れて、違和感を飲み込む/「ちゃんとした自分」を手放しつつある/演じるも演じないも、自分の意志で選びたい

前書きなど
「あの子と一緒にいると、キャラ変わるよね」
 そう言ってきたのは、人の振る舞いをよく観察している男子だった。少人数の飲み会で何度か一緒になったことがある彼は、何事に対してもうわべの対応を見過ごさず、人の本音をえぐるような斬り込み方を芸風にしていた。私が、あまり心を許していない人たちの前では言わないようなことを、「あの子」が同席しているときには言っていたらしい。気心が知れていて本音トークが信条の彼女の前では、私のなかの毒舌キャラが顔を出していたのかもしれない。

 二十代前半から親しくしていた後輩の男子が、仕事相手の前で「私」と言っている場面に遭遇したときも、なかなかの衝撃だった。それまでは、「俺」あるいは、先輩の前で「僕」と言っているところしか見たことがなかった。「私」を一人称にして話すことは、社会人としての正しすぎる振る舞いなのだが、もしも初対面での出会いが「私」モードの彼だったとしたら、果たして仲良くなっていただろうかと感じてしまう。

 こんなふうに、誰と一緒にいるか、どのような役割を背負っているかによって、人が自身のキャラクターを少しずつ変容させていくことに、昔から興味があった。作家の平野啓一郎氏は『私とは何か―「個人」から「分人」へ』(講談社現代新書)で、人が「対人関係ごとに見せる複数の顔」を「分人」と定義しており、「演じている」と自覚しているようなキャラクターもすべて「本当の自分」であるとしている。

 とはいえ、人は、なんらかの理由で演じている自分のキャラクターに違和感を持ち、演じるのがつらくなってしまうことがある。そうした「演じることの苦しみ」を軸に、いろいろな人にインタビューをしてみたいと思い、本書を企画した。

 本書に登場するのは、さまざまな職業や役割を担っている二十代から五十代の八人。創作プラットフォームのnoteの文章を読んでコンタクトを取った人、「演じる」という切り口で話を聞いてみたい職業の人、このテーマで語ることがありそうだと感じた知人などにインタビューした。

 こちらの想像以上に重い話を打ち明けてくれた人もいて、掲載を控えた内容もある。それだけ、「演じる」ことの背景には、人が生きていくための切実な動機が含まれているのだと感じた。なお、本書でインタビューした八人の名前はすべて仮名(ハンドルネームを含む)にしている。

 演じることには苦しみもあるけれど、演じることが自分を導いてくれる面もある。それは当たり前のことなのかもしれないが、これまであまり言語化されていなかったように思う。
 八人の語りは、それぞれに個人的な物語であり、二〇二〇年代の今を生きる私たちが共有している物語でもある。「今日も演じちゃったなあ」と感じた夜に、その苦みや甘さをかみしめながらめくる本書が、あなたがこれから身にまとっていきたい演技を取捨選択する一助になればと願っている。
(月と文社 藤川明日香)

版元から一言
人はなんらかの形で「演じている」生き物です。その背景には、社会生活を円滑に送るため、自分をより良く見せるためなど、さまざまな理由があると思いますが、「演じている自分」に違和感を持ったり、演じるのが苦しくなったりした経験がある人も多いはずです。本書は、これまであまり語られてこなかった「日常の演技」について、さまざまなキャラクターや役割を演じてきた自覚を持つ8人にインタビューした記録です。演じることを軸に語られる多彩な人生に触れながら、読者が自身の生き方を振り返るきっかけになるような本になればと願っています。

著者プロフィール
月と文社 (ツキトフミシャ) (編)
「日常をもっと、味わい深く」をコンセプトに、読むことで自分と対話したくなるような本づくりを目指す出版社。代表の藤川明日香は出版社で20年以上、主に雑誌の編集に携わった後、2023年に月と文社を設立。これまでに、イラスト短編集『東京となかよくなりたくて』、インタビュー集『かざらないひと 「私のものさし」で私らしく生きるヒント』『こじらせ男子とお茶をする』、翻訳絵本『ゴッホとひまわり』、エッセイ・アンソロジー『私の孤独な日曜日』を出版。

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